入社後に「給料が違う」「こんな仕事は聞いていない」と言われる
外国人雇用の契約トラブルは、ほとんどが「説明不足」から起きます。悪意ではありません。条件を口頭で伝えただけ、日本語の契約書を渡しただけ。これで「聞いていない」が生まれます。労働基準法15条は、賃金や労働時間など主要な条件を書面で明示するよう企業に義務づけています。外国人だから免除される、ということはありません。
「ちゃんと面接で説明したのに」――そう感じる採用担当者は多いです。でも、本人が日本語をどこまで理解したかは別問題。「ハイ、ワカリマシタ」が、本当に分かっていたとは限らないんですよね。📌 ここで一度立ち止まれるかどうか。それが後のトラブルを左右します。
このページでは、入社後の「聞いていない」を生む説明不足の正体と、母国語での確認・同意の記録など、ご自身で防ぐ判断基準を整理します。読み終えるころには、自社の契約まわりのどこが弱いか、見当がつくはずです。
この記事のポイント
- 労働条件は「口頭」ではなく「書面+本人が理解できる言語」で明示するのが大原則。労基法15条と職業安定法が、賃金・時間・業務内容などの明示を企業に求めています。
- 「言った・言わない」は、母国語の控えと署名・確認の記録で9割防げる。記憶ではなく、残る形にしておくことが何より効きます。
- トラブルが多いのは賃金・業務内容・在留資格との不一致の3点。ここを採用前に詰めておけば、入社後の食い違いは大きく減ります。
この記事の結論
- 一言で言うと、契約トラブルの正体は「説明したつもり」と「理解したつもり」のズレです。
- 最も重要なのは、本人が読める言語で条件を示し、理解したことを記録に残すこと。
- 失敗しないためには、雇用契約書・労働条件通知書・在留資格で認められた業務、この3つを一致させておくことです。
😊 なぜ「聞いていない」が生まれるのか――説明不足が招くトラブルの正体
口頭説明と日本語の契約書だけでは、明示義務を果たしたことにならない
労働条件の明示は、企業の義務です。気遣いやサービスではありません。労基法15条と職業安定法5条の3が、賃金・労働時間・業務内容・契約期間・就業場所などを、はっきり示すよう求めています。問題は「示し方」。日本語の契約書を一枚渡して終わり、では不十分なケースが多いんです。
正直なところ、ここでつまずく企業は少なくありません。実際にあった相談です。
採用担当者:「契約書、ちゃんと渡してサインももらったんですよ。それなのに『残業代の話は聞いていない』と言われて…」
これ、よくあるんです。サインはした。でも中身は読めていなかった。日本語の専門用語が並ぶ書面を、N4程度の日本語力で正確に理解するのは、実はかなり難しい。「サインしたから同意した」とは、必ずしもならないわけですね。
判断基準はシンプルです。本人が内容を理解できる言語で示したか。理解したことを確認したか。この2つが欠けていると、明示義務を形だけ満たしても、トラブルは防げません。
賃金・業務内容・在留資格――食い違いが起きやすい3点
トラブルの中身は、だいたい決まっています。弊社の経験上、多いのは次の3つ。
ひとつ目は賃金。「手取りで20万と聞いた」が代表例です。社会保険料や税金が引かれる仕組みを説明しないと、額面と手取りの差で「話が違う」になります。残業の割増、深夜手当、寮費の控除。このあたりも、入社後に判明して揉めやすい。
ふたつ目は業務内容。「ホールだと聞いたのに厨房に入れられた」「事務だと思ったら現場作業だった」。業務の範囲を曖昧にしたまま採用すると、ここでズレます。
3つ目が在留資格との不一致。これが一番こわい。在留資格で認められた範囲を超える仕事をさせると、本人だけでなく企業も不法就労助長で責任を問われます。「技術・人文知識・国際業務」で採用した人に、単純作業ばかりさせる――こうした例は実際にあります。契約書の業務内容と、在留資格で許された活動。この2つは必ず一致させる必要があります。
「分かりました」を真に受けない――理解の確認をどこで取るか
外国人スタッフの「分かりました」には、3つの意味が混ざっています。本当に分かった。聞こえたけど分かっていない。分からないけど角を立てたくない。実は最後の2つが、けっこう多いんです。
ある食品工場の現場リーダーの話です。
リーダー:「全部うなずくから安心してたら、後で全然違うことしてて。聞いたら『分からないと言いづらかった』って言うんですよ」
「分からないと言えない」。これは語学力の問題というより、文化や立場の問題です。だから、理解の確認は「分かりましたか?」と聞くだけでは足りない。📌 「いま説明した残業代、どう計算されますか?」と、本人の言葉で説明してもらう。これで初めて、理解度が見えます。重要な条件ほど、この一手間をかける価値があります。
🔑 トラブルを防ぐ進め方――明示・母国語・記録の3つの判断基準
必ず明示すべき項目と、書面で残す範囲
まず、何を書面で示すか。労基法が「絶対的明示事項」として求めるのは、契約期間、就業場所、業務内容、始業・終業時刻、休憩・休日、賃金の決定と計算・支払方法、退職に関する事項などです。2024年4月からは、就業場所・業務の「変更の範囲」も明示が必要になりました。配置転換の可能性がある企業は、ここも要チェックです。
外国人雇用で特に丁寧にしたいのが、賃金の内訳。額面いくらで、何がいくら引かれて、手取りがいくらになるか。残業代の計算方法。寮費や水道光熱費を控除するなら、その金額と根拠。「実際に手元に残る額」まで示しておくと、入社後の「話が違う」がぐっと減ります。
口頭で補足するのは構いません。ただし、補足した内容も含めて、後から確認できる形で残す。これが基本姿勢です。
母国語での説明が求められる理由と、現実的なやり方
なぜ母国語なのか。理由は明確で、理解していない同意は同意ではないからです。厚生労働省は「外国人労働者の雇用管理の改善等に関する指針」で、労働条件などを本人が理解できる方法で明示するよう、企業に求めています。やさしい日本語、母国語の翻訳、通訳の同席。手段は問いません。
とはいえ、全部を完璧な翻訳で、というのは現実的でないこともあります。ケースによりますが、現実的なやり方はこうです。
労働条件通知書は、厚労省が多言語のひな型を無料公開しています。英語・中国語・ベトナム語など、主要言語が揃っています。まずこれを使う。そのうえで、賃金や業務内容など揉めやすい部分は、通訳や多言語対応の人材会社に確認してもらう。重要なところだけでも母国語で押さえる。これだけでトラブルの芽はかなり摘めます。
「全部やるのは大変」と感じるなら、優先順位をつける。賃金・業務内容・在留資格。この3点だけは母国語で確実に。そう割り切るのも、ひとつの判断です。
「言った・言わない」を消す――同意の記録と控えの渡し方
最後は記録です。これが効きます。
やることは3つ。ひとつ、母国語版の労働条件通知書を本人に渡し、控えを会社にも残す。ふたつ、説明した日付と、誰が・何を説明したかを記録する。みっつ、本人が内容を確認した署名をもらう。できれば「内容を理解しました」の一文を本人の言語で添える。
ある人材会社の担当者は、こう言っていました。
担当者:「契約のときに母国語の控えを渡しておくと、後で『聞いていない』がほぼ出ないんです。手元に残ってますから」
記憶は曖昧になります。でも書面は残る。トラブルになったとき、会社を守るのも、本人の安心を支えるのも、この記録です。手間に見えて、いちばん割に合う備えなんですよね。
よくある質問
Q1. 口頭で説明して本人がサインすれば、契約は有効ではないのですか?
A1. サイン自体は有効でも、明示義務を果たしたとは限りません。労基法15条は書面での明示を求め、本人が理解できる言語で示すことが前提です。理解を伴わない署名は、後で「聞いていない」の争点になります。
Q2. 労働条件通知書は、本当に母国語で作る必要がありますか?
A2. 法律上「母国語で」と明記はありませんが、本人が理解できる方法での明示が求められます。厚労省が多言語のひな型を無料公開しているので、これを使えば負担なく対応できます。
Q3. やさしい日本語だけでも大丈夫ですか?
A3. 日本語力が高い人なら有効です。ただN4程度だと専門用語は難しいことが多い。賃金・業務内容・在留資格の3点だけでも母国語で補うと、理解のズレを防げます。
Q4. 雇用契約書と労働条件通知書、両方いりますか?
A4. 明示は通知書、合意は契約書という役割の違いがあります。実務では両方の要素を兼ねた「労働条件通知書兼雇用契約書」を1枚で交わす企業も多く、これで問題ありません。
Q5. 在留資格で認められた業務と契約の業務がズレるとどうなりますか?
A5. 不法就労助長として、企業も処罰の対象になり得ます。契約書の業務内容は、在留資格で許可された活動の範囲内に必ず収めてください。採用前の確認が欠かせません。
Q6. 入社後に「給料が聞いた話と違う」と言われました。どう対応すべきですか?
A6. まず説明時の記録と母国語控えを確認します。額面と手取りの差が原因なら、控除の内訳を改めて母国語で説明する。記録があれば、事実ベースで冷静に整理できます。
Q7. 自社だけで母国語対応まで揃えるのが難しいです。どうすれば?
A7. 多言語対応の人材会社や登録支援機関に委託する手があります。重要部分の翻訳・通訳・記録の運用まで任せられるので、社内負担を抑えつつ説明不足のリスクを下げられます。
まとめ
この記事のまとめ:要点3つ
- 契約トラブルの正体は「説明したつもり」と「理解したつもり」のズレ。労基法15条は、賃金・時間・業務内容などを書面で、本人が理解できる言語で明示するよう求めています。
- 「言った・言わない」は、母国語の控え・署名・説明記録で防げる。記憶ではなく、残る形にすることが何よりの備えになります。
- 揉めやすいのは賃金・業務内容・在留資格の不一致の3点。ここを採用前に詰め、この3つだけでも母国語で確実に押さえれば、入社後の食い違いは大きく減ります。
説明不足は、悪意がなくても起きます。でも、防ぐ仕組みはつくれます。母国語での明示や記録の運用に不安があれば、まずは話だけでも、外国人雇用に詳しい専門家に相談してみてください。自社のどこに穴があるか、整理するだけでも次の一手が見えてきます。
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