難民ビザは存在しない?!難民の就労者が増えている背景と現状
外国人の採用に関わっていると、必ず耳にする『難民ビザ』ですが、本来、難民ビザという在留資格は存在しません。
この俗にいう難民ビザとは、入国管理局などに難民認定申請中の外国人を指します。
昨今では、この難民ビザを取れば就労制限なく働けるという誤った理解が広まり社会問題となっています。
本記事では、難民ビザが生まれた背景を理解するとともに、日本でどのような難民が働き、何が問題視されているのかまとめていきたいと思います。
難民の定義
日本で難民を支援している、認定NPO法人難民支援協会によると、難民は次のように定義づけられています。
難民とは、紛争や人権侵害などから自分の命を守るためにやむを得ず母国を追われ、逃げざるを得ない人たちのことです。
世界中にさまざまな難民が存在しますが、日本には、アジア・中東・アフリカを中心に難民が集まってきています。
もともと海外との国交を禁止していた歴史のある日本で、いつから難民の受入れが始まったのでしょうか?
歴史をたどっていくと、1970年代後半のベトナム戦争が終結するころに、ベトナム・ラオス・カンボジアの人々を1万人ほど受入れたことがきっかけと言われています。
その後1981年に難民条約に加入し、2010年に第三国定住難民受け入れを開始しています。
難民条約とは(1981年)
1981年に加入した難民条約では、条件難民とインドシナ難民という2つの難民を受け入れることを取り決めしています。
条件難民とは、この難民条約のもとで定義された難民のことで、
「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという、十分に理由のある恐怖があるために国籍国の外にいる人で、国籍国の保護を受けられない人、または保護を望まない人」
と定義されています。
インドシナ難民は、先に述べたベトナム戦争のときに自分の生まれた国を離れた人々と、その当時日本が受け入れていたラオスやカンボジアの難民などを指します。
第三国定住難民受け入れとは(2010年)
2010年に開始した、第三国定住難民受入れの制度は以下の内容です。
一度は母国を逃れて難民となっているが、一次避難国では保護を受けられない人を他国(第三国)が受け入れる制度
一度は他の国で難民として生活しようとしたものの、きちんとした保護が受けられない場合もあります。
その人たちを第3の受入れ国として迎え入れるための協定です。
このように、日本には複数の難民を受け入れている歴史がありました。
難民認定申請の概要と手続きの流れを理解しよう
続いて、日本における難民認定申請の概要と申請手続きの流れをお話していきます。
先にご説明した通り、難民とはそもそも、母国の紛争などの被害から逃れてきた人を指すため、『日本で働くために与えられた在留資格』ではありません。
まずは難民の制度全体像から理解していきましょう。
難民認定申請の概要
難民認定制度とは、1982年の難民条約のもと整備されたもので、難民認定の申請を行い法務大臣から認定を受けることができれば、次の3つが認められるようになります。
永住許可要件の一部緩和
難民旅行証明書の交付
難民条約に定める各種の権利
本来は、日本で外国人が永住許可を受けるためには、日ごろの素行が善良であり、かつ自らの生計をまかなえるだけの十分な稼ぎがないといけない、と条件付けられています。
しかし難民の認定を受けていれば、生計をまかなえる資産や技能を有していなくても永住許可を受けることが可能になります。
※参照『入国管理局 難民認定制度』より
難民認定申請の手続き
難民認定の手続き方法を見ていきましょう。
〇申請者
基本的には本人が行います。申請者が16歳未満の場合、また病気などの事情により父母、配偶者、子どもまたは親族が代理申請人になることができます。
〇申請期間
特に申請期限はありません。
〇申請窓口
申請者の住所を管轄している最寄りの地方出入国在留管理局や支局、出張所で行います。
〇申請の際の必要書類
こちらをご確認ください。
〇難民であることを証明する
難民であることを証明するためには、申請者本人が提出した資料に基づいて判断されます。
申請者の提出資料だけで判断がつかない場合は、難民調査官が申請者の話が正しいのかどうか、調査を行います。
仮滞在の許可について
外国人が日本に滞在し何かしらの活動を行う際は、入国許可を受け在留資格を与えられなければなりません。
しかし、外国人から難民認定申請があった場合や、彼らが難民条約上の迫害を受ける可能性がある地域から来たことが分かった場合など、一定条件を満たしたときに限り、特別に日本に滞在することが許可される仕組みになっています。
この条件を満たさない場合は、外国人は退去強制手続が行われるのが一般的ですが、難民認定申請を行っていれば、即日退去ということはありません。
これを、難民に対する仮滞在の許可と呼んでいます。
難民認定申請を行っても就労はできない
これまでの章で、日本に難民として入国する場合は難民認定申請を行うこと、また難民認定申請を行っている間は仮滞在の許可が下りるので、強制退去はしなくて良いということをご説明しました。
ここで注意いただきたいのは、難民認定申請をしても在留資格がもらえるわけではないということです。
すなわち、在留資格がない難民は就労許可が与えられず、アルバイトはもちろん正社員として勤務することはできません。
2018年1月14日までは、難民認定申請から6か月経過すれば、一定の就労が許可されていました。
しかし、2018年1月15日からこの制度が見直され、難民条約じょうの難民に明らかに該当しない人は、難民認定申請中であっても日本での在留および就労を認めないと公表されています。
法務省入国管理局『難民認定申請をすれば日本で就労できるというものではありません』資料より
今働いている難民はどうやって働いているのか?
2018年1月15日から、難民に対する運用が新しくなり、難民認定申請者は次のように振り分けられるようになりました。
(以下、法務省『就労制限の対象となる難民認定申請者について 』から抜粋)
A案件:難民条約上の難民である可能性が高いと思われる 案件,又は,本国情勢等により人道上の配慮を要 する可能性が高いと思われる案件
→特定活動6か月付与
B案件:難民条約上の迫害事由に明らかに該当しない事情 を主張している案件
→在留の制限が発生します
C案件:再申請である場合に,正当な理由なく前回と同様の主張を繰り返している案件
D1案件:本来の在留活動を行わなくなった後に難民認定申請した人、又は 出国準備期間中に難民認定申請した人
→就労制限が発生します:「特定活動(3月,就労不可)」
D2案件:D1以外の人が該当します
→申請等から6月以内:「特定活動(3月,就労不可)」を2回許可されます。申請等から6月経過後:「特定活動(6月,就労可)」
A案件に分類された難民の方は、Aと判定された後すみやかに特定活動が6か月間付与されます。
この特定活動の在留資格が付与されてはじめて就労が許可されるようになるのです。この6か月の特定活動は、難民認定申請の異議申し立て結果が出るまでは更新が続きます。
また、難民認定申請を通して、条約難民・人道的配慮による在留を認められた者は 、定住者の在留資格または1年・3年の期限付きの特定活動に切り替えられます。
定住者、特定活動であれば、在留資格範囲内での就労が可能になるのです。
難民で働く人々の現状
ここからは、難民に関わるさまざまな数値を見ながら、日本国内の難民の現状を理解していきます。
(参照:法務省入国管理局 平成30年9月資料『難民認定制度の運用の更なる見直し後の状況について』 )
難民認定申請数の推移
難民認定申請の数は、年々増加していました。平成29年度には過去最大の19,629人となり、対前年比で50%増となりました。
しかし、平成30年度に難民認定制度を見直しした結果、同年上半期の申請数は前年から2,975人(約35%減)となり、平成22年以来8年ぶりの減少となりました。
※平成30年度のみ、上半期の数値を記載
国別の難民認定申請数
次に、難民認定申請数を国籍別に見ていきましょう。
〇平成30年上半期 国籍別難民認定申請数
1位 ネパール 859人
2位 フィリピン 783人
3位 インドネシア 596人
4位 ベトナム 493人
5位 スリランカ 423人
6位 カンボジア 371人
7位 インド 342人
8位 パキスタン 338人
9位 トルコ 258人
10位 ミャンマー 241人
法務省の調査によると、上位5位にランクインしているフィリピン、ベトナム、スリランカかは対前年から60%急減し、インドネシアは約29%減少していることが特徴的です。
難民と就労のこれから
今回は、難民ビザは存在しないということ、難民認定申請とはどのような手続きが必要なのかなど、難民についての大枠をご説明しました。
難民によるトラブルや『偽装難民』などのネガティブなワードばかりがメディアで取り上げられることも多いので、もしかしたら難民に対して良くないイメージを感じる人もいるかもしれません。
難民は決して危険な存在ではなく、むしろテロや紛争の犠牲者として、安全に過ごせる場所を探してきた人たちです。また、難民は外国人が日本で働くために作られた制度でもないということを理解しましょう。
正しい知識を身に着け、これからどのように難民認定申請を行っている人たちと関わっていくべきか、考えていく必要があるでしょう。