留学生向け!新しい在留資格が令和元年5月に策定『特定活動の本邦大学卒業者』
出入国在留管理庁は、令和元年の5月に外国人留学生の大学卒業者を受け入れる新たな在留資格について公表しました。
これは2019年4月に新設された特定技能ビザや、今まで運用されてきた国際貢献が目的の技能実習制度とは異なり、日本の大学・大学院を卒業した一定の日本語レベルや知識を要件とした新しい在留資格です。
本記事では留学生の就職支援に関わる「特定活動」(本邦大学卒業者)についてのガイドラインを、企業様向けにわかりやすく噛み砕いてご説明します。
※2019年6月6日公開
令和元年初のプレスリリースにて公表された新しい特定活動
令和元年5月28日、出入国在留管理庁は留学生の就職支援のための法務省告示の改正についてを発表しました。
法務省のサイトおよび、留学生の就職支援に係る「特定活動」(本邦大学卒業者)についてのガイドライン に沿って、この制度ができた背景や制度の目的、概要をお話していきます。
特定活動(本邦大学卒業者)ができた背景
日本には現在約30万人もの留学生がいます。毎年、留学生の数は増えていますが、残念ながら留学生の就職率は非常に低く、日本での就職の夢を諦めて母国に帰る人は後を絶ちません。
この外国人留学生の就職を支援するために、2016年には「日本再興戦略改訂2016」にて外国人留学生の就職率を3割から5割にすると閣議決定されました。
そこから2年後の2018年12月25日、閣議官僚会議の中で「外国人材受入れ・共生のための総合的対応策」が取り決めされています。
この策の中で、留学生の就職先の幅を広げる目的で、現状の在留資格に対して告示改正を行うことが決定となり、日本国内の大学および大学院を卒業した優秀な外国人をしっかり定着させて、日本国の経済を活性化させようという運びとなったのです。
特定活動(本邦大学卒業者)の概要
今回の取り決めの概要は以下の通りです。※留学生の就職支援に係る「特定活動」(本邦大学卒業者)についてのガイドライン から引用
今般,本邦の大学又は大学院を卒業・修了した留学生(以下「本邦大学卒業者」とい う。)の就職支援を目的として,法務省告示「出入国管理及び難民認定法第七条第一項第 二号の規定に基づき同法別表第一の五の表の下欄に掲げる活動を定める件」の一部が改 正され,本邦大学卒業者が日本語を用いた円滑な意思疎通を要する業務を含む幅広い業 務に従事することを希望する場合は,在留資格「特定活動」による入国・在留が認めら れることとなりました。 本ガイドラインにおいては,新たな制度の基本的考え方や用語の解説のほか,具体的 に認められる業務内容,提出資料等について取りまとめています。
ざっくりとご説明すると、日本の大学または大学院を卒業・修了した外国人留学生の中で、日本語レベルが長けている人は、在留資格の中の『特定活動(本邦大学卒業者)』を与えるので、日本語が必要な幅広い業務に就くことが出来るようになったということです。
ここでの大学とは短大や日本語学校は含まれるのでしょうか?また、この特定活動(本邦大学卒業者)で求められる日本語レベルはどのくらいなのでしょうか?
次の章で確認していきましょう。
どんな大学が対象となるのか
今回対象となるのは、日本の大学または大学院の過程を修了し学位を授与された人でかつ、N1相当の日本語レベルが必要になります。
〇大学の種類
日本の4年生大学を卒業
日本の大学院を修了
短期大学、専修学校の卒業者は対象になりません。
〇日本語能力
日本語能力試験(JLPT)でN1を取得している人
BJTビジネス日本語能力テストで480点以上を持っている人
大学または大学院にて日本語を専攻していた人
外国の大学、大学院で日本語を専攻していて、かつ日本の大学か大学院を卒業、修了した人
この4つの試験が日本語能力の目安となります。N1レベルとなると漢字の読み書きも含めて非常に高いレベルとなるので、難易度が高い設定となっています。
4の場合、たとえ外国の大学で日本語を専攻していたとしても、あわせて日本の大学・大学院を卒業・修了しなければなりません。
今回の制度では、日本の大学・大学院を卒業・修了することが必須条件となっていることがわかります。
※日本語能力試験(JLPT)とBJTビジネス日本語能力テストについては次の記事で詳しくご紹介しています。
『日本語能力試験(JLPT)とBJTビジネス日本語能力テスト/外国人の日本語レベルのチェックの仕方』
日本語を用いた円滑な意思疎通を要する業務って何?
この制度で定められている『日本語を用いた円滑な意思疎通を要する業務』とは、具体的にどのような仕事を指すのでしょうか?
留学生の就職支援に係る「特定活動」(本邦大学卒業者)についてのガイドラインによると、日本語を用いた円滑な意思疎通を要する業務とは、言われた作業を理解して行うだけの受け身のレベルでは足りないと定義されています。
つまり、カタコトで一問一答ができるレベルではNGなのです。
この在留資格を用いて携わる業務は、翻訳や通訳ができるくらい日常的な会話を理解する力が必要であり、理解した上で第3者に伝える”双方のコミュニケーション”ができるレベルの業務であるということです。
かなりレベル高く日本語力が求められる仕事でないといけないと言うことですね。
大学で修得した広い知識を活用することとは?
ガイドラインに定められている本制度の概要を見ると、『本邦の大学又は大学院において修得した広い知識及び応用的能力等を活用するものと認められること』と記載されています。
これは特定活動(本邦大学卒業者)の外国人が行う業務内容に、『技術・人文知識・国際業務の在留資格の対象となる学術上の素養などを背景とする一定水準以上の業務が含まれていること』『または今後当該業務に従事することが見込まれること』と説明されています。
技人国ビザは、大学などで専攻していた分野と関連のある仕事に就いて、学んだ知見を発揮することが期待されている在留資格でした。
特定活動(本邦大学卒業者)もこの技人国ビザと同様に、学業で身に着けた知識を十分に発揮できるような仕事でないとやってはいけないよとここで定めているのです。
このガイドラインから、特定活動(本邦大学卒業者)は、技人国ビザと同様に学歴ビザであり、日本の大学または大学院で身に着けた知識を発揮することが期待されている在留資格だと理解しましょう。
具体的な仕事例
前の章では、特定活動(本邦大学卒業者)の概要や対象となる外国人の条件をお伝えしてきました。
ここからは、特定活動(本邦大学卒業者)の具体的な活動例をガイドラインに沿ってご説明していきます。
飲食店
飲食店の店舗での接客業務。ただし、外国人のお客様に対して通訳を兼ねた接客、日本人に対しての接客がメインとなり、キッチンでの皿洗いだけ、清掃業務だけに従事するのはNGです。
工場
工場などのライン作業や技能実習生への指導。ライン作業の作業員として従事するだけは認められません。技能実習生やともに働く外国人に、日本人社員から指示された事項を通訳、伝達して両者のパイプ役となるような仕事を期待されています。
この外国人スタッフへの伝達や指導などを行っていれば、自分自身もライン作業を行うことが可能です。
小売り・販売
商品の販売員、接客業務と商品の仕入れ作業や商品企画など。
日本人への接客も行いますが、主に外国人のお客様に対して通訳を兼ねた接客を行うことを想定した仕事です。商品陳列だけ、店舗の清掃・雑用だけなど、日本語能力や知見を活かせない仕事のみに就くことは認められません。
ホテル・旅館
翻訳業務を兼ねたサイトの開設、運営業務、または外国人従業員やお客様と関わりのある接客ポジション。ホテルや旅館で、海外向けのサイトを作るなど翻訳業務が含まれるもの、管理業務は認められます。
また、接客系であればドアマンやベルスタッフなどのポジションで、外国人のお客様および外国人従業員に対して指導や通訳を行う仕事が認められます。
ここでも、客室清掃のみに従事することはNGです。
タクシー運転手
タクシー運転手、またはタクシー会社での集客・営業企画などの業務。
外国人観光客が増えている今、タクシー会社に勤めて外国人観光客の集客に係わる企画立案のような本社スタッフに従事することが認められます。
また実際にドライバーとしてのドライバー業務として、日本人のお客様・外国人のお客様に通訳を兼ねた観光案内を行うことが認められます。
介護
介護施設にて他の外国人スタッフ、または技能実習生への指導を行い自ら介護業務に従事する。
外国人および日本人の利用者とのコミュニケーションをとる役目を行い、介護全般の業務に従事します。
施設内の清掃や衣服の選択のみ、単調な作業のみに従事することは禁止されています。
これら6個がガイドラインに記載された活動例ですが、どの仕事にも共通するのは『日本語能力を活かす、大学で学んだ知見を発揮するような仕事』に就くことです。
飲食店での勤務が可なので、一見単純労働が認められたと勘違いしやすいですが、日本語能力・コミュニケーション力を発揮しないような単調な清掃業務などはNGとなっている点が特徴です。
特定活動(本邦大学卒業者)の契約形態について
今回の特定活動(本邦大学卒業者)は、申請が終わると指定書が付与されて旅券に貼り付けられます。
指定書には『指定する活動』として活動先の機関、すなわち勤務先が指定されるので、もし転職で活動先が変わる場合は指定書も変更しなければなりません。
つまり、転職の際は在留資格変更許可申請が必要となります。
指定書記載の内容
指定書には機関名が記載されます。この機関名は契約先の所属機関名のことで、特定活動(本邦大学卒業者)の外国人が勤める先の法人を指します。
同一の法人内で異動・配置換えが行われた場合は、この所属機関名が変わらないので在留資格変更手続きは必要ありません。
転職などで所属機関名、すなわち勤め先の法人が変わる場合は在留資格変更許可申請が必要になるということです。
アルバイト・パートへの適用
特定活動(本邦大学卒業者)は、フルタイムの仕事のみ許可されています。
短時間勤務であるアルバイト・パートは、この在留資格の対象外です。
派遣の可否
特定活動(本邦大学卒業者)は、指定書に記載された契約機関の業務に就くことだけが認められるので、派遣社員として採用することは認められません。
社会保険の加入に関して
特定活動(本邦大学卒業者)は、契約機関(指定書に記載された雇用主)が、適切に外国人の雇用管理を行うことが必要です。社会保険に加入しているかどうか、確認を求められることがあります。
【要注意】外国人社員にも日本人と同等以上の報酬を渡すこと
今回のガイドラインでも明確に、外国人にも日本人と同等の報酬を支払うよう義務付けられています。
地域や個々の企業の賃金体系を基礎にする
同業他社の日本人と同等額以上にする
昇給、評価の仕方も日本人大卒者・院卒者の賃金を参考にする
特定活動(本邦大学卒業者)が留学生時代などに一度就職し、実務経験がある場合はその経験も考慮する
このように、様々な角度から基準を設け、外国人社員の報酬が理由もなく日本人より劣ることのないようにと言及されています。
特定活動(本邦大学卒業者)の在留資格/申請方法や変更・手続き方法
特定活動(本邦大学卒業者)の在留資格を申請する方法をご説明していきます。
あわせて同在留資格を変更、または更新するときはどのような手順を踏むのかも見ていきましょう。
特定活動(本邦大学卒業者)申請時/変更時の提出資料
提出資料は次の通りです。
写真
縦4cm×横3cmで申請前3か月以内に正面から撮影された無帽、無背景で鮮明なもの
返信用封筒1通
提携封筒に宛先を明記し、392円分の切手(簡易書留用)を貼ります。これは在留資格認定証明書申請のときだけです。
パスポート、在留カード
在留資格認定証明書申請のときだけです。
申請人の活動内容を明らかにする資料
当該外国人が勤める予定の企業で定められている、労働基準法第15条第1項および同法施行規則第5条に基づいて、外国人労働者に交付される労働条件を明示した文書の写しが必要です。
雇用理由書
所属機関(当該外国人の勤め先)が用意した書類が必要です。雇用契約書に記載があれば提出が不要ですが、日本語を用いたどのような業務に就くのか明らかになった書類を提出します。
申請人の学歴を証明する文書
卒業証書や卒業証明書の写しです。
申請人の日本語能力を証明する文書
日本語能力試験(JLPT)N1、またはBJTビジネス日本語能力テスト480点以上の成績証明書の写しが必要です。
外国の大学で日本語専攻をした人は、外国の大学の卒業証書や卒業証明書(学部・学科・研究科などが記載されているもの)が必要です。
勤務先の事業内容を明らかにする資料
勤務先の沿革、役員、組織、事業内容、主要取引先と取引実績などが記載されたものと、これに準ずる勤務先の補足説明の文書。
勤務先のホームページの写し、登記事項証明書などが必要です。
在留期間更新時に必要なこと
特定活動(本邦大学卒業者)の在留資格を更新するときは次の4つが必要です。
写真
縦4cm×横3cmで申請前3か月以内に正面から撮影された無帽、無背景で鮮明なもの
パスポート、在留カード
提出は不要で、提示のみ必要です。
課税証明書および納税証明書
課税証明書または納税証明書を提出します。万が一、証明書を取得できなかった場合は、源泉徴収票か当該機関の給与明細や賃金台帳の写しが必要です。
家族滞在の可否について
特定活動(本邦大学卒業者)の在留資格では、当該外国人の扶養を受ける配偶者と子どもに対して、特定活動(本邦大学卒業者の配偶者等)の在留資格が与えられます。
配偶者等が在留資格を申請するには、次の書類などが必要です。
在留資格認定証明書交付申請書、在留資格変更許可申請書、在留期間更新許可申請書
写真
縦4cm×横3cmで申請前3か月以内に正面から撮影された無帽、無背景で鮮明なもの
返信用封筒1通
提携封筒に宛先を明記し、392円分の切手(簡易書留用)を貼ります。これは在留資格認定証明書申請のときだけです。
パスポート、在留カード
次のいずれかで扶養者との身分関係を証明する文書
戸籍謄本/婚姻届受理証明書/結婚証明書/出生証明書
扶養者の在留カードまたはパスポートの写し、または住民票
扶養者の職業と収入を証明する文書
在職証明書/課税証明書または納税証明書。(万が一、証明書を取得できなかった場合は、源泉徴収票か当該機関の給与明細や賃金台帳の写しが必要です。)
これらの書類を持って申請し、家族向けの在留資格を取得することが可能です。
就職後の進路の選択肢は増えたのか?技人国ビザとの違い
今まで、外国人留学生の卒業後の進路として主軸だったものは『技術・人文知識・国際業務』の在留資格での就職でした。
この技人国ビザでは、単純労働を認めずオフィスワーク(ホワイトカラー)での活動しか認められていません。
かつ大学で専攻した学科に関連性のある仕事にしか就くことができず、飲食店やコンビニなどの単純労働はNGとなっています。
今回の特定活動(本邦大学卒業者)と比較すると、以下のような違いが見られます。
技術・人文知識・国際業務
日本の高専・短大・大学卒以上
母国語を使った通訳・翻訳業務に就くこと
学校の専攻や保有資格と関連性のある業務に就くこと
主にこれらが基準となっています。つまり、技人国ビザで留学生が就職できる仕事は、
母国語を使った通訳・翻訳に関連する業務
学校で専攻していた分野と関連する業務
となり、単純労働(飲食・ホテル・ビルクリーニング・運送など)は学校で学んだ専門知識を活かして行う仕事ではないとみなされてしまうので、いわゆるホワイトカラーの企業に就職が出来るビザとなるのです。
特定活動(本邦大学卒業者)
特定活動(本邦大学卒業者)の基準を見てみましょう。
日本の大学・大学院卒以上で、高専・短大卒は認められない
学校の専攻と関連のある仕事か日本語を活かした業務に就くこと
技人国ビザとは異なり、高専・短大卒は含まれていません。
しかし日本語レベルがN1であれば、今まで単純労働なのでNGとされていた飲食やホテル、タクシードライバーや工場系のライン作業、コンビニ(小売り)などにも就職できるのが大きな違いです。
技人国ビザと同じように、『日本の学校で学んだこと、学歴を活かして就職する』という見方もありますが、これに追加で加わったのが『日本語N1相当であれば、通訳・翻訳を含む業務に就くことはOK』という基準です。
ただし繰り返しになりますが、あくまでも『日本語N1相当の高い語学レベルを発揮しながら』働くことがポイントになりますので、飲食業に就職する際に、ひたすら調理の仕込みをするだけのポジションや店舗清掃メインで行うポジションでは採用が認められません。
特定活動(本邦大学卒業者)は高い日本語レベルが必要なビザ
今回は、令和5月に発表された新しい在留資格、特定活動(本邦大学卒業者)についてご説明しました。
N1相当の高い日本語レベルが必要となること
あくまでも日本の大学・大学院を卒業していて大学で学んだことを活かす仕事であること
アルバイトではなくフルタイム勤務のみであり、日本語通訳など語学を活かした仕事に限定されていること
上記のポイントさえクリアすれば、単純労働とされていた飲食店などの業態でも働くことが許可されたこと
これが、特定活動(本邦大学卒業者)を理解する上で非常に重要なポイントとなります。
日本に興味を持ち、日本で就職したい、長く働きたいと希望を持って訪日してくれた留学生を少しでも就職しやすくするように作られた在留資格。
制約はあるものの、この在留資格を通して新たな雇用がどの程度生まれるかどうか、エムティックでは最新情報を追っていきたいと思います。